Anime・Art・Archipelago ―瀬戸内の島へ行く その2・女木島&男木島編―

Matcha1919

旅行アニメSummerPockets

159 Words

2025-10-26 08:30 +0000


退屈な毎日 繰り返して夏が来て
こぼれた涙と 本音を隠して
いつからか僕ら 忘れてしまっていた一瞬が
晴れた空からふりしきる

鈴木このみ / Lasting Moment


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TVアニメ『Summer Pockets』ノンクレジットED映像


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Anime・Art・Archipelago ―瀬戸内の島へ行く その1・直島編―

末茶藻中(Matcha1919)によるテキストサイトです。

というわけで、直島編に続いていよいよ女木島&男木島を巡る。


8/31 女木島へ・洞窟探索

高松で一泊して、翌日高松港のフェリー乗り場へ行く。行きがけにうどん屋に寄って昼食とする。高松では基本うどんばかり食べておけばよいだろう、と思っていたのでその通りのプランで行く。


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さか枝うどん 南新町店

おろしぶっかけうどんを食べる。うまい。しかしせっかく西に来たのだから薄口のダシのうどんを食べるべきだった、と反省。コシが強く弾力が強い。何よりも早くて安い。大衆食堂のような店がいくつもあり、香川のうどんは「観光のためにプッシュされているが、県民に等しく親しまれているわけではないグルメ」1とは違い真実の県民食なのだ! と実感する。
その土地の本場の味であるリアルの食が体験でき、うまいし早いし安い。自分が旅行先の食事で食べたいものの全てが詰まっていて、本当に何も文句がない。日常食としてもどう考えても嬉しく、香川に住んでいたならば自分も日常的にうどんを食べ続けると確信がある。

今日も照りつけるような暑さだが、しかし澄んだ青空で気持ちがいい。港にて海を見ながらソーダを飲んで一息ついた。海を見るだけで1日ぐらいであれば潰せそうであるが、そうも言っていられないのでフェリーの切符を買う。女木島→男木島と行くならば、片道切符を買いながら乗船する形になる。昨日帰りの船を逃しているので、今回はその自体は避けたい……と気持ち早めにチケットを買いに行く。無事に買えた。


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女木島・女木港

無事に女木島に到着。「男木島もそこまで規模が大きい島ではないので、せっかくだし女木島へも行っておくか」ぐらいの気持ちだったので、あまりどう過ごすかは考えていなかったのだが、フェリーから降りると人々の流れが完全にできている。
なんとなくついていくと鬼の洞窟行きのバスに吸い込まれていくので、まぁではやはり鬼を見物しにいこうかと、そのままバスに乗り込んだ。洞窟へはなかなか長い道のりのようであったので、これを逃すとまたなんとなく徒歩チャレンジをしたかもしれないし、よい選択だった。

さて、ではいよいよ鬼との対面……。


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女木島・鬼ヶ島大洞窟入口

あ! 鴎いる!(大声)(オタク)

実際は「おっこれもアートでござるかぁ~w 拙者芸術祭に来ている故、記念に写真を撮るでござるよ~w」みたいに平静を装いながら撮影した。でもみんな萌えパネルのことをあまり気にしてなかったから、オタクだとバレたかもしれない。

鴎ルートで探検する洞窟のモデルが、ここ鬼ヶ島大洞窟であると言われているらしい。実際中で川が流れていたりはしないし、中は鬼の像などで飾られているので実際の雰囲気は違うのだろうとは思うが。
サマポケのモデルという話の前に、その名の通り「桃太郎の鬼ヶ島のモデルなのではないか」と言われているとか。鬼というのは実際は海賊であったとも言われているそうだが、ともかくこの洞窟が何らかのアジトとして使われていた形跡があるのだと言う。そのボスがいたとされる「鬼の大広間」では、大きな鬼の像が鎮座している。この大広間に行くには人一人がなんとか入れる狭い通路を抜けて行くので、子どもが大きな鬼を見て「こいつどうやって入ったんだ!?」と絶叫していた。


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女木島・鬼ヶ島大洞窟「鬼の大広間」

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女木島・鬼ヶ島大洞窟 出口付近

桃太郎が鬼と仲良く握手を交わしている像があって微笑ましい。
これからの時代はやっぱり「愛・平和」なんかなぁ……。

洞窟内はひんやりとしていて夏でも気持ちがいいが、外に出ると容赦ない夏の日差しに再び晒される。
バスは1時間に一本ペースで時間があったので、近くの展望台へ行ってみる。瀬戸内海が一望でき、ここもまた絶景で素晴らしい。


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女木島・展望台より

展望台からは、女木港がきれいに見下ろせる。
また、海が広がる方角を眺めてみれば、遠く霞む向こうにぼんやりと島のシルエットが浮かんでいて、天上に来たかのような幻想的な光景が広がっていた。おとぎ話の国のようである。

バスに乗って港へ戻る。港の近くにもいろいろなアート作品が設置されていて、実際見てみるとなかなか面白い。


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木村崇人『かもめの駐車場』 共に女木港にて

女木港には「鴎」が至る所にいる。
このかもめの話を聞いて写真を見た時は正直「ふーん」ぐらいだったが、実際に見てみると大勢のかもめのオブジェが、風向きに合わせて一斉に整列する様はかなり壮観で、一見の価値がある。


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禿鷹墳上『20世紀の回想』 女木港にて

ピアノを船に見立てたオブジェ。海風を受けてはためく帆が心地よい。ピアノとして弾くことはできないそうだ。 『サマポケ』の鴎ルートには帆船が登場するが、女木島で見られる帆船といえばこのオブジェのようだ。

女木島、楽しかった。まず豊かな自然があって、そこにスッと意味を添えるようなアートの姿が心地よい。直島とはまた違った感触があるなと思った。
直で男木島に行くことも考えたが、せっかくだしと寄り道をしてよかったなと思う。


8/31 男木島へ・町を巡る

さていよいよ男木島である。今回の旅行の目玉でもあるので、否応なしに高揚する。

男木島といえばこれよ。


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「さしずめ俺は……」 男木島行きフェリーより

『サマポケ』のゲーム開始直後の島の全景の印象的なカット。
こだわる人は男木島から帰りのフェリーを狙うらしいのだが、今回は日没後のフェリーで戻るためどのみちこの日は今しかない。個人的にはそこまで違いがわからないので、いい感じに島の正面が見られて嬉しい。似たことを考える人が多いのか、フェリー正面を陣取って島を見つめる乗客がこの日は多かった。イベント日ということもあるのだろう。

『サマポケ』の白鳥島の全景のモデルが男木島となると、やはり舞台モデルとして最も雰囲気が近いのは男木島(正確には、男木島の規模が少し大きくなったような島)ということなのだろうと思う。


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男木島行きフェリーより


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男木島・男木港付近より


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男木漁業共同組合。『サマポケ』では役場として登場

旋回して、港へフェリーが到着する。今回訪れた中でも、男木島は最も漁師町の雰囲気があった。個人的にはこの男木島の雰囲気がかなり好きで、というのも自身が富山の漁師町の出身なので、そういう風景にに不思議と居心地の良さを感じるところがあるからなのかもしれない。しかし、漁師町と言っても山の斜面にところ狭しと家が並んでいるのは、この男木島独特の景観で、面白い。

そして更に、昔ながらの町並みにハイカラなアートが所々融合している。何かに寄り添うようなアートは今回の旅で度々見てきたけれど、これもまた非常に面白かった。
この男木島にもやはり私のような観光客が大勢訪れていたが、アートと町が本当にすぐそこに接近しているようであった。いたるところにアートが展示されていて、そしてそのすぐ近くには「ここから先は私有地なので立入禁止」なる立て札が立っていている光景がいくつもあった。私と言えば自由気ままに町並みを見物する物見遊山の気分であったが、そうした立て札を見ると「他所様の生活空間にお邪魔していることでもあるのだ」と、自然と背筋が伸びた。


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男木島の町並みに溶け込む壁画
眞壁陸二『男木島 路地壁画プロジェクト wallalley』


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ガラス窓に描かれた絵と男木島の風景が融合する。三枚の窓を重ねると更に一つの絵になるという
大岩オスカール+坂茂『男木島パビリオン』

ただ男木島を巡るだけでも想像以上に面白いが、何はともあれイベントの受付をする。
受付場ではオタクの皆さんが列を成していた。物販も行っているようだが、昼過ぎにはもう完売が多い。本日限定で受注生産を受付し、後日郵送して貰えるとのことでありがたい。


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イベントチケットと缶バッジとパリングルス(!)

飲食店はあまりないかと思っていたが、港の方で出店が出ていて海産物の軽食が食べられて嬉しい。
タコばっかり食べた。男木島はタコが有名らしい。


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たこぶつ。素材の味がしてうまい!


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たこ天。素材の味がしてうまい!


8/31 男木島・男木島灯台へ

日が落ち始めたあたりで、いよいよ男木島の灯台へと向かう。珍しい無塗装石造の歴史ある灯台ということで、ちょうど先日国の重要文化財にも指定されたとのこと。灯台自体が男木島のシンボルの一つであるが、『サマポケ』ファンからすれば紬ルートのたまり場という印象深い聖地スポットでもある。


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灯台への道。蒼の昼寝スポットのはこのあたりの道らしいが、
とてもではないが寝られそうにない

鬱蒼と茂る草木を超えながらひたすら進んでいく。結構骨が折れるぐらいの距離ではあるが、しかしここを抜けると海岸沿いの道に出る。ここが時間帯も相まって本当に素晴らしい風景で、道のりの疲れも吹き飛んだ。


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海沿いの道。『サマポケ』頻出の背景でもある


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進む先に男木島灯台が見える


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海岸


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男木島灯台


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男木島灯台


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男木島灯台を逆光にて撮影


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日の入り

灯台の近くにはイベントのために集まったオタクの方々がたくさんいた。

イベントは2部制で、夕方と夜に分かれている。私は夜の方だった。
写真をさっと撮って終わりかな、という軽い気持ちだったのだが……はっきり言って、戦いだった。

皆必死である。僅かな時間に最高のワンショットを撮ろうとカメラを構えるオタクの方。思い思いのグッズを手にするオタクの方。当然私も必死であった。そしてそんなオタクの方々を捌く男木島スタッフの皆さん。この空間だけは瀬戸内ののどかな空気ではなく、オタクイベントの熱気が漂っていた。
そしてBGMにはもちろん『紬の夏休み』が流れている。戦いの場にはふさわしくないBGMであるが、しかしこの場ではこれほどふさわしいBGMは他にはないだろう。私は思わず紬ルートのあの美しき一幕のことを想起し、オタクとして目頭を熱くした。

奇妙ながらも美しき、奇祭の夜であった……。


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全て、サマポケキャンドルナイトにて


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なんとツーショットを撮って貰える
(笑顔でピースをするアロハシャツの筆者の姿は久島鴎さんにて隠している!)

パネルはさておき灯台をキャンドルで彩るのは一般開放されていても面白い試みだと思うが、こうしてなかなか大変なイベント模様を見ていると、なかなかそう簡単な話でもないのだろう。

撮影が終わると来た道を戻って男木港へ戻るのだが、真っ暗でめちゃくちゃ怖い。
スタッフの方がところどころで案内してくれるので、それを頼りに恐る恐る戻った……。
港に近づくと町の明かりが見えてきて、ほっとした。


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夜の男木港

イベント後となると普段フェリーが走らない時間なので、イベントのためにわざわざフェリーを動かしてくれている。無料で乗れるが募金箱に皆が寄付をしていた。
フェリーの客席に座って、一息つく。あとは帰るだけだな、と思ってぼんやりしていると、ふと客席の外が騒がしくなった。気になって外にでてみると、島の方々が揃ってフェリーに手を振っていた。じ~んと来て、私も思わず手を振り返した。暖かい光景だった。

女木島も男木島もいいところであった。もともとの自然があって、そこにもともとの人の暮らしがあって、そこにアートが加わって、そしてアニメ(2次元コンテンツ)も加わって。私も田舎の出ではあるし、こういうことってなかなかうまくできることじゃないよな、と思う。
アニメ・アート・群島、それらがここでは奇妙に共生していて、ここにしかないいろいろなものが絡み合った、ここだけの光景を生み出している。
それは異なるものを受け入れるというおおらかなことの証でもあるのだろうけれど、同時に新しく加わったどれかが今までのものを塗りつぶしても成立はしなかったものだろうと思う。あくまで私は2次元が大好きなオタクの立場であって、そこにある景観を偉そうに評することができる立場ではないのだけれど。ただ凄く魅力的な場所だと思った。


9/1 高松から帰路へ

一泊して月曜に帰る。高松を見物しようと思っていたのだが、ホテルに忘れ物(パリングルスを忘れてしまった!)をして戻ったりしていたら時間がなくなって、あまり観光らしいことはできなくて残念。しかし高松もいいところだった。商店街のアーケードが長く長く続いていて、昔ながらのお店と、真新しいお店が並んで、そして活気がある。これまたそうそうどこでも成立する光景ではないと思った。

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うどん市場 めんくい

やはりうどんを食べた。ぶっかけじゃなくてかけを食うぞ! と思ったのだが、あまりに暑すぎて冷たいうどんしか喉を通らなかった。
ここはひやかけ相当がぶっかけということなので、結局メニューとしてはぶっかけを頼む。説明通り黄金色の透き通ったつゆで、確かに薄口のかけっぽい色をしている。もともと、私はどちらかといえば東側のうどんに慣れ親しんでいるので、正直西スタイルの色の薄いつゆのことを薄いと感じていたのだけれど。しかしここのつゆはしっかりと塩味がついていて、味としての薄さは微塵も感じない。それでいて味わいはしつこくなく、上品なダシの味わいが爽やかにスーッと口の中に広がって、めちゃくちゃうまい。しかも早いし安い。凄すぎる。

この時期は胃が弱くて全然量を食べられない時期だったので、元気だったらもう数軒うどんを食べたかったが、なかなかそうもいかずに残念。とはいえそのあたりにフラッと入った店で香川のうどんのレベルの高さを感じられて良かった。寒い時期にも来てみたいところだ。

平日の飛行機が安いので、高松空港から成田空港へ。成田空港が遠すぎて、結局帰ったのは遅くになってしまった。

おわりに

島も芸術祭もあんまりどういうものか知らなかったのだが、行ってみるとめちゃくちゃ楽しかった!

アニメを抜きにしても観光の中で様々なアートを体験できるのは楽しい。芸術と聞くとハードルが高く感じてしまうが、ただアートのそのあり方を楽しむというだけでもよくて、こんなに気軽に楽しめるものでもあるのだな、と知った。もちろん知識があればもっといろいろな楽しみ方があるのだろうけれど。

またアニメがなければなかなか出不精なもので遠出をすることというのがなかなかないので、きっかけをくれたアニメにも感謝。いろいろな良きめぐり合わせがあって、良き旅ができたなと思う。


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アクキーとTシャツ

後日グッズが届いた。ありがとうございました!


商品リンク

Summer Pockets むぎゅでいず紬の島さんぽ (電撃コミックスNEXT) コミック 永山 ゆうのん (著), Key (原著)

日本の島 32号 (男木島) [分冊百科]

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  1. 富山ブラックみたいな(注:富山ブラック自体の歴史は古いらしいが、少なくとも県民の老若男女に長年親しまれた日常食ではないのである。フクラギとかの方が食う。あと8番。) ↩︎