Anime・Art・Archipelago ―瀬戸内の島へ行く その1・直島編―
On an island in the sun
We’ll be playin’ an’ havin’ fun
And it makes me feel so fine
I can’t control my brainIsland in The Sun / Weezer
はじめに(夏の島へ)
2025年夏。TVアニメ『Summer Pockets』を大変楽しんでいた私は、作品の舞台モデルの一つである男木島にて企画された「男木島灯台サマポケキャンドルナイト〜紬の誕生日を祝おう〜(8/31)」への参加の応募をし、幸運なことに当選となった。特に何も夏らしい予定のなかった夏の終わりに、これ以上ないぐらいの夏らしいイベントが舞い込んできたわけだ。
2025年の8月31日は日曜日。旅費をケチって日曜日に入ることも考えたが、せっかく珍しく旅行に行くのだし……と思って、2泊3日で直島、女木島&男木島、残りは高松でも観光する、という旅程を立てた。普段旅行もあまりしないが、島に行く経験はなにげになく、結構ドキドキしていた。せっかくなのでその記録を旅行記として残そうと思う。
流石に舞台を訪れるのにアニメだけというのも不義理であろう……と思ったので、8月終わりの一週間でサマポケのゲームを購入し、紬のルートをプレイ。アニメにてあらすじは知っていたが、あまりに美しい物語で、普通に涙。10月段階ではアニメも終わっているが、振り返ってもやはり紬ルートが一番好きだったかもしれない。
紬・ヴェンダース、夏の妖精のような素晴らしいヒロインだ。また、静久のこともかなり好きになった。気持ちの準備は万全である。
8/30 島へ(岡山→直島へ)
直島に行くには高松港(香川県)と宇野港(岡山県)のルート候補がある。今回、行きは新幹線を使うことにしたので、岡山駅から宇野へと向かい、そこから直島へ行くルートを取る。
電車を乗り継いで宇野駅に着くと「瀬戸内芸術祭」の鮮やかなブルーののぼりに迎えられた。今回そこまでガッツリサマポケの聖地を巡るつもりはなかったので、この芸術祭を見物してみるのも旅行の計画の一つだった。実際おそらく芸術祭目的であろう観光客も多そうで、海外からの旅行者も多く見かけた。
そんなこんなでフェリーに乗る。昨年東京湾をサイクリングで一周した時にフェリーに始めて乗って、これが二度目である。フェリー乗船は二度目です(ANiMAZiNG!!!)
瀬戸内海には島が点在しており、フェリーに乗っているときもそれが見える。東京湾を横断する時に乗った太平洋とも、慣れ親しんだ故郷の日本海とも違う海の光景が新鮮だった。旅行中幾度となく瀬戸内海の風景を眺めたが、本当に素晴らしく感動的で、これだけでもわざわざ訪れた価値があるなと思った。
フェリーの客室の正面窓から、島が近づいてくるのがわかる
直島・宮浦港。『サマポケ』でもおなじみのスポット
「聖地巡礼目的ではない」などと言ってはいたが、アニメ/ゲームで見覚えのある場所に迎えられると流石に否応無しにオタクとして気持ちが上がってしまう。へじゃぷ。
直島には港が2つあって、ここ宮浦港ともう一箇所・直島港がある。サマポケの舞台は穏やかで小さな漁村のような趣であるが、宮浦港はガラス張りの案内所や、島のアイコンでもある草間彌生の"かぼちゃ"のオブジェ(港の近くにあるのは『赤かぼちゃ』の作品)があり、どこか洗練された雰囲気がある。先にも書いたが観光客も多く、移動のためにバス表とにらめっこをしていたら施設の方に「日本語で大丈夫ですか?」と声をかけられ、親切に案内して貰って助かった。アジア系の旅行者も多いのだな、と思った。
観光客が多いので、完全に油断していてレンタサイクルが借りられつくしていた。仕方がないので、バスで移動する。なんとなく時間があるだけぶらぶらするか、ぐらいのプランなので自由なものである。今日だけはアニメのオタクである自我を捨てて、自由気ままにアートを堪能しようではないか!
バスで向かうは本村エリア。そこで私が訪れたのは……。
共に、直島・本村エリア
サマポケの背景やぁ~~~!
感激~~!(オタク)
どこへ行こうか考えながら動いてたら体が勝手に真っ先に聖地スポットにとりあえず行ってしまって本当に悔しい。オタクじゃないぞって顔をしていたのに……。ここのエリアだけオタクの風格がある方が明らかに多くて「フフ、あなたがたも、そうなんですね」とこっそり心の中で微笑を浮かべていた。
さておき、島には観光スポットが点在しているためどこへ行くべきか結構悩む。聖地めぐりもいいが、せっかくなのでいい感じの美術館に入ってみることにした。一応1つ「地中美術館」に行ってみたいと思っていて1、夕方に行くスケジュールだったので、それまでに他へ行ってみることにした。
直島港。本村エリアから近い
道を歩いていると突如巨大なゴミ箱に遭遇。
三島喜美代『もうひとつの再⽣ 2005−N』
8月の終わりだと言うのに気温は残暑どころではない暑さで、水分補給を続けていないと倒れそうであった。
はっきり行って徒歩が適切な島のサイズではないので、訪れる方は私を反面教師にしてレンタサイクルの予約を忘れずにすべきである。兎にも角にも涼しいところへ避難したく「ベネッセアートミュージアム」を目指しながら徒歩移動を続ける。島のため池を目指していたのだが(←結局サマポケの聖地巡っているオタク)途中で通りすぎてしまって残念。ちょっとした山道みたいなところを抜けたあとで、徒歩で戻る気合は足りなかった!
建物の内外に散りばめられたミラーボール。
草間彌生『ナルシスの庭』ヴァレーギャラリーにて
様々な言葉が不規則に光るモニュメント。
ブルースナウマン『100生きて死ね/100 Live and Die』ベネッセハウスミュージアムにて
美術館で涼みながら、海岸沿いを散歩したりして時間を潰す。
瀬戸内の海はどこから見ても絶景で素晴らしい。これだけでここを訪れたかいがあった、という気分に何度もさせられる。
そして、その自然の中にもパブリックアートが点在している。アートという人工物は通常であれば自然とは相反するモニュメントとして立ち上がってくるのだろうが、ここの島では自然とアートの調和というものが、様々なところで試みられているように思える。そうした自然とアートが共にある光景が、直島の風景なのだと思った。
海岸。絶景である
崖に写真がかけられている。その時はアートと気が付かなかった。
杉本博司『タイム・エクスポーズド ミルトア海 スーニオン』
巨大な3枚の板のモニュメント。風が強いと動くらしい(!)
ジョージ・リッキー『三枚の正方形』
時間になったので地中博物館を訪れた。
直島の美術館の多くは安藤忠雄によって手掛けられている。コンクリート打ちっぱなしの安藤建築は、居住などの生活の空間としては賛否が別れているようだが、美術館という場であれば、その無機質でモダンな空間は非日常感を演出しながら様々なアートを引き立てており、面白いものだった。
地中美術館・入口。館内は基本撮影禁止
地中美術館 | アート・建築をみる | ベネッセアートサイト直島
自然光で鑑賞できる、クロード・モネ『睡蓮』シリーズ
巨大な球体と木彫りによる空間にて表現されるアートの、ウォルター・デ・マリア『タイム/タイムレス/ノー・タイム』
鑑賞者がスクリーンに入り込むように鑑賞したりもする、光を展示するジェームズ・タレル『アフラム、ペール・ブルー』『オープン・フィールド』『オープン・スカイ』
以上、3アーティストの展示が地中美術館では鑑賞できる。数としては少ないが三者三様のアートはどれも面白く、満足感が高かった。予約してよかったと思う。
地中美術館では人数制限があって、一度に作品を鑑賞できる人は限られている。そのおかげか展示室は静かで、空間にアートが厳かに鎮座している様子にはそれだけでどこか圧倒されるような心地がした。
特にクロード・モネ『睡蓮』シリーズが楽しみだったので、これが見られて良かった。
おみやげにポストカードを買ったので、部屋に飾っている。
オタク部屋にあるモネのポストカード
地中美術館を後にして、島を出るために再び宮浦港へ。
バスを待ってもよかったが、せっかくの島を存分に味わいたいと思って、正直へとへとだったが疲れた体に鞭を打って徒歩で移動する。普通に道を間違えて逆に進んでいて泣きたくなったがめげない。歩き続けることでしか届かないものがあるから……。
ネコパスの停留所があった(疲れ果てていて本当に今すぐ来てほしかった)
疲れていてもなお、瀬戸内の海は美しい。
少しぼやけた向こう側に、こことはまた違う島の輪郭が見えて、それがとても神秘的な光景に見えた。かつて富士山に登った時に2見た雲海を思い出すような光景で、こんな景色がこのような人里近くで見られるのか、となんだか驚いた。
そのぐらい瀬戸内の風景というのは、私にとっては新鮮なものだった。
夕時の瀬戸内海
宿へ(直島→高松へ)
草間彌生『赤かぼちゃ』宮浦港近くにて
なんとか直島港へとたどり着いたが、なんと高松行きの最終便がもうないという!
ただまあ正直、地中美術館の遅めの予約を取った段階からこの事態はもともと危惧はしていた。岡山の宇野へのフェリーはまだあるそうなので、そこ経由で高松を目指す。遠回りにはなってしまうが、仕方がない。高松に到達できるだけよしと思おう。
そうして無事高松へ。直島にはサマポケの蒼のバイト先である駄菓子屋のモデルもあって、そこは見ておきたかったのだがすっかり忘れていた。残念だが仕方がない。
宮浦港の売店で買った、マカロンにしては巨大な「直島マカロン」
かぼちゃのアート作品をかたどっているという
島にはそこまで飲食店が多いわけではない。あまり食べるところも決めておらず、またあまり胃も壮健な時期ではなかったので、結局直島では地中美術館内のカフェで軽食をつまむぐらいだった。
カロリーが足りなくなると嫌だなと思ってマカロンだとかクッキーを時々買っていて、翌日の女木島・男木島の時の非常食にしようと思っていたのだが、結局普通におみやげとして持ち帰って帰ってから食べた。おいしかった。
遅くはなってしまったが、日が落ちた後で夜風に当たりながらフェリーで移動するのも心地よかった。夜の宇野を見物しつつ(週末だからか盆踊りなどをやっていた)ゆっくりと電車に揺られて高松到着。何にせよ無事についてよかった。
笑顔で迎えてくれた高松駅
ということで、結構長くなったので翌日の女木島・男木島の話はまた別記事にて。
商品リンク
直島 瀬戸内アートの楽園 (とんぼの本) 福武 總一郎 (著), 安藤 忠雄 (著)
14 地球の歩き方 島旅 直島 豊島 女木島 男木島 犬島瀬戸内の島々2 改訂版